WORKS アメリカと日本の違い[仕事のプロセス編]

2021.3.24

日本とアメリカでは仕事の進め方がかなり違っていて、当初はその違いに戸惑うことも多くありました。一長一短あるのですが、個人的にはアメリカのプロセスは合理的だなと感じています。そこで今日は、両者の違いについてシェアしたいと思います。


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ラウンド

僕は初めてこの言葉を聞いた時、提案をするデザイナー側としてはボクシングのようにボコボコにノックアウトされてしまうようなイメージを抱いてしまいました。笑 アメリカのデザイン業界ではこのラウンド制が一般的に使われています。仕事にもよりますが、ラウンド3から5くらいが一般的でしょうか。ラウンドというのは、クライアントへのデザインの提出またはプレゼンと、それに対するフィードバックがワンセット=1ラウンドとなっていて、それを何度か繰り返して精度を上げていくというプロセスです。

おおよそ3から5ラウンドあるのが前提で始まるので、そんなに殴られるのを前提に考えなくても、1回目のプレゼンでOKだったら、1回でいいのに!と最初は感じていました。しかしよく考えてみると、どんな仕事も1回プレゼンをして、では納品しますねという仕事は経験したことがなく、デザインはOKだったとしても、細かくはテキストの変更など、何かしら修正はあるものだと思います。その場合は、その修正対応がRD(ラウンド)2になります。大きなプロジェクトになってくると、RD1でデザインディレクションを決めて、RD2は、RD1のコンセプトをもとに展開していくということも多くあります。

このシステムに関して、はじめは戸惑いもありましたが今ではすごくポジティブに捉えています。そもそもアメリカでは、仕事をはじめる前(契約を結ぶ前)に、必ずスコープ(業務範囲)を明確に決めます。それに加え、提案日、フィードバックをもらう日、それを何ラウンドかして、いつ納品するのか、というスケジュールとプロセスを事前にしっかりと決めます。その上で、そこにかかるコストも必ず事前に決めるのです。また、大体の場合は費用の半分を事前に支払ってもらい、業務をスタートさせ、納品後に残りを支払っていただくというパターンです。

一見、事前に決める大変さや難しさがあるように感じられますが、デザインを発注するクライアント側としても、事前に全体像を把握することによって、各調整にかかる時間を短縮したり、進行途中の揉め事などのトラブルを避けることもできますし、後からの追加費用に関する交渉も最小限にできるなどのメリットがあると思います。

受注する側からしても、業務量が明確になっていることで過不足なく人件費を計算することができますし、はじめての取引の場合でも諸々をきっちりと書面で残しておけば不払いへの不安も減り、余計なことに気を揉まずプロジェクト専念することができるので、事前に決めるのは双方にとって理にかなっていると思います。

前述のとおり、業務のスコープ、スケジュール、プロセス、費用について両者で納得して、初めて仕事が始まります。アメリカでは、なんとなくフワッと始まることがありません。日本ではなんとなく予算がわからないままプロジェクトが始まって、追加追加で制作物が増えて、最後に追加で費用がかかりますとか、グロスでこの金額で大丈夫でしょうかといった交渉ごとになることがありますが、アメリカではこういう事が起こらないように事前に取り決めをしっかりすることになっています。

日本のプロセスでは、全体のバジェットが決まらないと、支払いできる金額が決められず、結果フワッと始まって、それでも最後に帳尻をつけられるメリットもあるかもしれませんが、アメリカのプロセスは調整の時間やトラブル回避、ひいてはそれが信頼関係に繋がっていくので、メリットが大きいようにも感じます。一方で、クライアントとデザイナーと、ビジネスライクにパッと割り切れるものでもない空気感を一体となって共有して仕事を進めていく日本の良さもあると思います。予算ありきという枠を超えて、一緒になっていいものを粘り強く追求していく、完成度を高めていく、というマインドは日本のいいところでもあると思います。

僕はフリーランスの仕事で、つい先日アメリカのクライアントとあるブランディングのプロジェクトをこのプロセスで行いました。RD1で2案提案して1案を選択して、その後のそのデザインディレクションをもとに制作物を作り提案したのがRD2、すごく細かな修正をしたのがRD3で納品しました。事前に決めた通りのスケジュールで進行して、遅延も延長もなく、お互いとってもクリアに進められて気持ちよく仕事が終えることができました。

一旦そこで終わりですが、ブランディングはずっと続くものでもあるので、この先もまた機会がありそうな気もしています。仕事が終われば関係も切れる、というほどドライでもないなと感じた仕事でした。

今回は仕事のプロセス、主にラウンドに焦点を当ててまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。日本の良さとアメリカの良さ、いいとこ取りをして上手く仕事が進めていけるようになるといいなと思っています!今後、また何か気が付いたことがあればシェアさせてください。

Information

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仕 様 :A4判/272P
ISBN :978-4-295-20099-4
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