わずか1cmの世界にも、美は潜んでいるもの。

昨年から取り組んでいたルージュのビジュアルがようやく完成したので、ここで一番初めに紹介させてください。

このパンデミックによってマスクが常に必要な生活が当たり前になり、口紅の売上は激減しました。人と人とのダイレクトなコミュニケーションも減って、きっとその分笑顔も減ったのではないかなと思います。

そんな中で、もしもこのコロナ禍が終わったら、また口紅を塗って新しい気持ちで一歩踏み出したいと思わせるビジュアル、また、コロナ禍の中でも唇を乗せたいと女性をインスパイアするビジュアルを作りたいと思い制作に至りました。

口紅は女性の様々な表情を作るものですが、口紅それ自身もまた様々でユニークな表情を持っています。特に資生堂の口紅は色、形、ツヤ、質感、香りそのどれをとっても究極にこだわり抜いて作ってるので、紅先1cmのスーパークロースアップ写真の中に、資生堂が追求してきた美を見出すことができるのではないかと考えました。 それが“シセイドウ 美”というキャッチコピーの理由です。

美は細部に宿るとは言ったもので、この写真はわずか1cm程度の世界です。

1センチメートルの美

資生堂はグローバルコンペティターと戦う中で、日本オリジンであることが強い個性となっているので、表現的にはモダンジャパニーズネスをテーマにしています。
僕は古典的な日本の美ではなく、モダンな日本らしさとは何か、モダンな日本の美しさとは何かという問いを常に考えています。言葉ではなく、ビジュアルに落とすとどんなものなのか。これを表現することは、自分の一つの使命のようにも感じています。

今年は残暑が長く暖かい日も続いていたのですが、ニューヨークの街路樹も色づきはじめ、今は秋真っ盛り。そして明日は秋一番のイベント、ハロウィンですよね。10月にもなると、各家庭が自宅のデコレーションをはじめて一気にハロウィンムードに。特にタウンハウスの多いブルックリンのようなエリアでは軒先にスペースがあるので、各家庭が思い思いのハロウィンのデコレーションを楽しんでいます。

そこで今日は、僕が街中で見かけたハロウィンデコレーションをご紹介していきたいと思います。

 

 


紅葉が綺麗なオータムインニューヨーク。よく見ると手前の窓にスパイダーがいます

ストーリーがありそうなデコレーションですよね。これだけの人形たちはいつもどこに保管されているのか…

日本人的には、怖い顔のてるてる坊主にも見えます。笑

よく見ると、ワンコもガイコツに。

洗濯物にも見える?デコレーション

蜘蛛の巣をはるの、なかなか大変そうですよね

うわ、雑!!って思ってしまうクオリティ

ここまでくると、だいぶ雑でおもしろい。これは何の骨なんだろう…

こちらは学校。子供たちが一生懸命飾り付けをしているのを見るとちょっとほっこりします

思わず手をふりたくなる人形。リアルな人形も多いなか、子供にも優しいデザインでなごみます

昨年末よりブログをはじめて、これまでに50以上の記事をエントリーしてきました。ブログをはじめてみて、自分の中でなんとなくで理解していたことや考えていたことをいざ文章にまとめてみようとすると、実は捉えていたのが輪郭だけだった、ということ気づきました。

記事にすることによって自分の考えと向き合うきっかけになったり情報の整理になったり、物事をその背景まで考えてみようとしたり、とても良い経験になっています。

おかげさまでたくさんの方に読んでいただき、実際に「ブログ読みました!」と声をかけていただり、メールをいただいたり、そういう声が励みになっています。ありがとうございます。

大変ながらもはじめてよかったなと思っています。

今後も記事のエントリーは続けて行く予定なのですが、様々なプロジェクトが一気にスタートした関係で今まで日本時間水曜日の午前、ニューヨーク火曜日の夜に更新させていただいていましたが、年末までの間は不定期に更新させていただきます。

年明けからの更新につきましては、また決まり次第こちらのブログでお知らさせていただきますので、どうぞよろしくお願いたします!!

アップルピッキング行きたいなーという思いが溢れて表紙をりんごの写真にしました。笑

NYはこの週末も半袖で過ごせるくらいの陽気でしたが、しっかりと秋の足音は近づいてきています。NYはマンハッタン自体は大都会ですが、1、2時間も離れるとそこは雄大な大自然というロケーションです。今日はそんなマンハッタン近郊で代表的な秋のイベントをご紹介したいと思います。

View this post on Instagram

Joe Thomas(@joethommas)がシェアした投稿

Fall foliage(フォール フォリッジ)

日本の秋と同じようにNYでも紅葉を楽しむことができます。上の写真はマンハッタンのど真ん中にあるセントラルパ—ク。そこでも十分に紅葉を楽しむことができますが、電車や車を使えば1〜2時間ほどでアップステートにも行けて、さらにパノラミックな紅葉を楽しめるのもNYならでは。
他にもヨットやボートでアッパーニューヨークの紅葉を巡るクルージングなど、紅葉を楽しむためのプログラムが充実しています。


_7507858.jpg
View this post on Instagram

Classic Harbor Line(@classicharborline)がシェアした投稿

Pumpkin Patch(パンプキン パッチ)

あまり聞き慣れない言葉ですよね。僕もNYに来てはじめてこのイベントを知りました。パンプキン パッチはハロウィンで飾り付けやパイに使うカボチャを収穫する、日本でいうところの果物狩りみたいなものでしょうか。
秋になると、NY郊外のファームではどこもパンプキンパッチが行われています。多くのファームでは、カボチャ狩りだけでなく、牧草を積む大きなトラックに乗って畑を走るヘイライドやコーン畑で作られた迷路のその名もコーンメイズ、そして、なんとカボチャを大砲代わりにするパンプキンキャノンなど聞くだけで楽しそうなアクティビティが盛りだくさん。


引用元:NEW YORK Family<11 Corn Mazes To Wander Through Near NYC>
View this post on Instagram

Harbes Family Farm(@harbesfarm)がシェアした投稿


引用元:https://www.greatpumpkinfarm.com/ パンプキンキャノン、一度はやってみたい。

引用元:https://www.greatpumpkinfarm.com/
パンプキンキャノン、一度はやってみたい。

Apple picking(アップル ピッキング)

NYに来てびっくりしたことはたくさんあるのですが、その中のひとつが林檎の種類の多さ!近所のスーパーでも常に6、7種類以上はあります!そんなアメリカ人の大好きな果物、林檎のシーズンが秋。ハロウィンのカボチャと共に林檎もたくさん売られる時期です。通常の売り場とは別に、アップルピッキング、つまり林檎狩りをイメージした特設コーナーも作られるほど。
アップルピッキングもパンプキンパッチと同様、林檎のオーチャードで大々的に行われます。実は、ニューヨーク州は林檎の産地としても有名で、たくさんの農場や果樹園があるんです。
ここでもヘイライドや触れ合い動物園などのアクティビティが楽しめます。
ファームによって多少違いはあるかもしれませんが、大体の場合、最初にバッグを購入してその中に詰め放題。
また、場所によってはアップルサイダーやアップルサイダードーナツをその場でいただけることも。
ちょっと話はそれますが、アメリカ人の友人と話していて驚いたのが、アップルサイダーはフレッシュなアップルジュースのことだということです。日本人としてはサイダーと聞くとしゅわしゅわの炭酸を思い浮かべると思うのですが、炭酸入りのジュースのことはソーダ(地方によってはPopやCoke)と言うみたいです。フレッシュなアップルジュースを使って作られたアップルサイダードーナツ、とても美味しくて好きなので、ぜひファームでできたてを食べてみたいです。
ちなみにハードアップルサイダーはソフトドリンクの反対でアルコール入りとのこと。

View this post on Instagram

Hurds Family Farm(@hurdsfamilyfarm)がシェアした投稿

View this post on Instagram

Hurds Family Farm(@hurdsfamilyfarm)がシェアした投稿

View this post on Instagram

Hurds Family Farm(@hurdsfamilyfarm)がシェアした投稿

と、ここまで紹介してきましたが、実はフォールフォリッジのクルージングもパンプキンパッチもアップルピッキングも行きたいと思いながら実行できていなかったので、この記事を書きながらとても行きたくなりました。笑

全部は難しいかもですが、せめてひとつくらい行ってみたいです。もし行けたらまたブログ記事にまとめたいと思います。


IMG_5887.JPG


IMG_5877.JPG

今日はイーストビレッジにある、McSorley’s Old Ale House(マクソリーズ・オールド・エール・ハウス)というアイリッシュパブについてご紹介したいと思います。このお店は、1854年にJohn McSorley氏によって創業されたニューヨーク最古といわれるパブのひとつ。

ちょっと話はそれますが、このお店を知ったきっかけはドラマでした。「Modern Love」というAmazon Prime Videoのオリジナルドラマで、このドラマはニューヨーク・タイムズに連載されている「男女間の恋”愛”に限らない色々な形の”愛”」がテーマのコラムに寄せられたエッセイが元になっていて、なんと全てが実話とのこと。

そんなドラマの7話にこのアイリッシュパブが登場していました。とは言っても、背景にちらりと映っただけだったのですが、外観の雰囲気がとても気になって、お店の名前をメモしておきました。調べてみると、先述した通りの情報が出てたのでますます興味が沸き、ずーっと行ってみたいと思っていたのですが、パンデミックの影響で一時お店も閉めていたようで、念願叶ってようやく訪ねることができました!


IMG_5876.JPG

このパブは、あのリンカーン大統領をはじめアンディ・ウォーホルやジョン・レノンなど名立たる著名人が多く常連だったそう。さらに、オーナーの意向で創業以降ずっと女性は入店できなかったそうですが、1970年に最高裁判所で敗訴して、それ以降になってようやく女性も入れるように。僕が生まれる約10年前まで女性が入れなかったということにも驚きでした。

お店の佇まいからして、すでに雰囲気があるのですが中に入るとまず匂いがすごい。床にはおがくずが蒔かれていて、その香りとなんとも言えない古めかしい少し湿った匂いが混ざりあって、視覚よりも先に嗅覚で歴史の厚みを実感しました。

午後の2時くらいに訪れたのですが、アウトドアもインドアもほとんど満席で、お客さんの年齢層は少し高め。地元の方たちかなという雰囲気です。パブが位置するイーストビレッジは若者が多いイメージなので、お店の中に入ってみてちょっとびっくりしました。

この投稿をInstagramで見る

McSorley’s Old Ale House(@mcsorleysoldalehouse)がシェアした投稿


昔ながらのフィッシュ&チップス。めちゃくちゃシンプルで素朴だけど、美味しかった笑

昔ながらのフィッシュ&チップス。めちゃくちゃシンプルで素朴だけど、美味しかった笑

ビアハウスと言っても、ビールはシンプルに2種類のみ!LightかDarkかの二択です。更におもしろいのが、1つ注文すると何故か小さいジョッキが2つやってきます。笑 これで$5.5。NYのレストランだとだいたいビール1杯で$8〜12くらいなので、価格的には安い。NYはクラフトビールが盛んで新しいビールがどんどん生まれ続けていますが、ここは150年も変わらずこのスタイルを貫いているのがすごいですよね。

店員さんたちもすごくプロフェッショナルで好感度が高かったです。はじめての訪問だと伝えると注文の仕方を丁寧に説明してくれて、君が座っているまさにその席にセオドア・ルーズベルトが座ったんだよ、と教えてくれました。フランクリンではない方のルーズベルト氏、彼は当時アメリカ史上最年少で大統領に就任したことで知られています。


この投稿をInstagramで見る

McSorley’s Old Ale House(@mcsorleys1854)がシェアした投稿

少し早めの時間に行ったのですが、どんどん混んできてあっという間にカウンターのスタンディング席まで満席に。よく見てみると天井は歪んでいるし、稼働できるのか謎なくらい古そうに見える暖炉、扉が開きそうにもないクローゼット、謎のやかん(?)、たくさんのモノクロ写真に囲まれて、賑やかな雰囲気に浸っているとまるでタイムスリップしたような気分でした。正直なところ、ビールの味よりもこの雰囲気に酔ってしまった感じはあります。笑

Lightしか飲めなかったので次回はDarkにも挑戦してみたいです。

日本酒ブランドSAKE HUNDREDの新聞広告のアートディレクションをしました。9月14日の読売新聞、16日の日経新聞に全国紙一面15段で出ます。今日はその制作についてシェアさせてください。

SAKE HUNDRED<オフィシャルサイト


Artboard 1 copy.jpg

昨今の緊急事態宣言やそれに伴う酒類の提供禁止という状況下で、お酒の存在自体が危ぶまれていると思います。でもお酒が持つ、人を豊かにするという本質的な価値を信じているSAKE HUNDREDの想いは変わらない、というところから今回の企画はスタートしました。

「あけるは、生きる。」というメインコピーの、あけるというのは、お酒をあける、お店をあける、夜があける、いろいろな事がポジティブに変化していく瞬間だと思います。そういった前向きな想いをビジュアルとコピーに乗せています。

強く意思のあるメッセージに合わせて、ビジュアルも堂々とした佇まいを目指しました。撮影はブルックリン、打合せはニューヨークと東京間でリモート、出稿は日本というプロジェクト。コロナ禍以前では考えられなかったスタイルですが、前回の表参道駅に続いて二回目の試みです。もちろん大変なこともありましたが、結果、力強く、そして凛とした芯のある広告を作り上げることができました。

困難があっても前を向いて進んで行けば、どんなに暗い夜の日も、美しい朝を迎えるようにまた新しい日々がやってくることを信じて、クライアントとクリエイティブチームとが一緒になって制作した日々でした。

あけるは、生きる。

どんなに暗い夜の日も、
世界は美しい朝を迎えるように。
お酒には心を満たし、人を豊かにする力がある。
あけていこう。前へ。明日へ。
あける。それは、未来のはじまりだから。
生きるということだから。


今はお酒を売っているメーカーだけではなく、お米の生産者、お酒を卸している人、サーブしている飲食店、お酒を飲むことを我慢している人たち、いろんな人たちが苦しい思いをしている時だと思います。

SAKE HUNDREDの前向きな姿勢が少しでも停滞感のある社会を明るくしてくれることを願っています。

友人を自宅に招いたり、お気に入りのあの店にいったり、そうやってお酒を飲める日がやってくるのが待ち遠しいですね。

Credit
Creative Director:高木 新平(NEWPEACE inc)
Art Director / Designer:花原 正基 Masaki Hanahara
Copy Writer:小藥 元(meet&meet)
Photographer: Kosuke Matsuo
Project Management:成田 龍矢(LON)


PHOTO, NYC Ferry

PHOTO, NYC Ferry

夏が終わりに近づいていますね。NYは冬が厳しいので、その分ニューヨーカーは夏が大好きです。今年はコロナ禍の中なので良識の範囲で、でも存分に夏を楽しんでいる人が多い印象です。

僕がアメリカで出会ったカルチャーで大好きなことの一つとして、サマーフライデーがあります。夏が始まる5月末のMemorial Day(メモリアル・デー)から9月6日(毎年9月の第1月曜日)のLabor Day(レイバー・デー)まで毎週金曜日は午後半休という夢のような勤務体系です。日本にもぜひ導入してほしいシステムです。現在はアメリカ企業の55%が導入しているそうで、従業員の生産性やモチベーションが上がるという調査結果もあるようです。(Gartner調べ)

このレイバー・デーは「労働者の日」という意味で労働者やその家族を労う日ですが、サマーフライデーが終わるタイミングでもあるので、多くのアメリカ人にとっては夏の終わりを告げる祝日です。また、ここ数年は気温上昇により延長することもあるそうですが、この日を境にほとんどのプールや海水浴場、キャンプ場の施設などがクローズするそうです。ニューヨーカーはこのレイバー・デーの連休を家族や親しい友人たちとキャンプやピニクニックに行ったりBBQをしたりして過ごして、夏を締めくくるのです。アメリカは9月が新しい学年のはじまりでもあるので、新生活に向けての良い区切りの連休でもありますね。


Brookfield Placeのフェリーターミナルから見るハドソンリバーの景色。NYの好きな景色の一つ。夏は特に景色がきれいに見えます

Brookfield Placeのフェリーターミナルから見るハドソンリバーの景色。NYの好きな景色の一つ。夏は特に景色がきれいに見えます

さて、そんな夏の締めくくる連休ですが、僕はNYC Ferryでハドソン・ヤーズに行ってきました。
このNYC Ferryは2017年に始まった市営フェリーで料金は地下鉄と同じく一律で$2.75。スタテンアイランドとハドソン・ヤーズを繋ぐSt. Georgeラインは先日就航したばかり。これまでのNYC Ferryはイーストリバー側ばかりだったので、ハドソンリバー側の景色も新鮮でした。地下鉄のほうが断然早いのですが、もはや移動自体が楽しいアトラクションです。

実はニューヨークに住みはじめてからこのフェリーでの移動にハマってしまい、天気の良い週末はフェリーに乗って景色を見ることを目的に出かけることもあります。笑 そのくらい気持ちがいいんですよね。特にこの夏はまだパンデミックの影響もあり遠出をする機会が減ったので、フェリーでクィーンズのアストリアまで行ってみたり、夏季限定でオープンする無人島ガバナーズアイランドに行ったり、ロッカウェイのビーチに行ったりしました。

今年はコニーアイランドへ行くラインも就航予定ということなので、今から楽しみです。


一番左側のピンクが今回新しくできたライン。右側の紫はロッカウェービーチのライン

一番左側のピンクが今回新しくできたライン。右側の紫はロッカウェービーチのライン


ミッドタウン。この絶景が2.75ドル

ミッドタウン。この絶景が2.75ドル


エンパイア・ステートビルや国連ビルも見えて、観光にもおすすめ

エンパイア・ステートビルや国連ビルも見えて、観光にもおすすめ


マンハッタンからフェリーで10分、最高にピースフルな無人島、ガバナーズアイランド

マンハッタンからフェリーで10分、最高にピースフルな無人島、ガバナーズアイランド


片道1時間くらいのロッカウェービーチ。ここまで来ても2.75ドル

片道1時間くらいのロッカウェービーチ。ここまで来ても2.75ドル

ガバナーズアイランドは好きすぎて去年は夏の間に4回も行くほどでした。これはまた今度記事にしたいと思います。マンハッタンの喧騒が嘘のように静かでリラックスして過ごすのに最適な島です。

NYC Ferryはマンハッタンの景色を眺めながらいろんなところにアクセスするのにいい交通手段だと思います。本数も多くはないし早くもないので、急いでいるときにはおすすめできませんが、休日にのんびりと気軽に出かけるときにはとてもいい乗り物です。気持ちがいい季節にぜひ乗ってみてください。僕の大好きなニューヨークの夏の交通手段です。(通年、運行はしています笑)


アートボード 3.jpg

今日は2018年に取り組んだ期間限定発売のベトナム産ハチミツのブランディングについて、ご紹介させてください。

この企画を進めるにあたって、まず最初にベトナムにある工場を訪ねました。ホーチミンの喧騒から3時間ほど車に揺られ、茶褐色の濁りきったメコン川を渡り、ひたすら亜熱帯のヤシの木ジャングルを超えた先に、今回の目的地であるハチミツ工場がありました。非日常の光景にまるで小説を読んでいるような気持ちになったのを覚えています。


ひたすら続いたヤシの木のジャングル

ひたすら続いたヤシの木のジャングル


道路脇の至るところに地元で取れた果物が売られていました

道路脇の至るところに地元で取れた果物が売られていました


現地で出会った果物が直接的なインスピレーションに

現地で出会った果物が直接的なインスピレーションに

ベトナムははじめて訪れたのですが想像以上に自然が豊かで、街では採れたての野菜やフルーツがたくさん売られていて、この環境でとれるハチミツはどんな味がするのだろうかと車に揺られながら期待は膨らんでいきました。

実は少し車酔いをしてしまったのですが、工場でハチミツを試食して疲れが飛んでいきました。まず驚いたのは口の中に広がったその風味。ロンガン、コーヒー、ライチ、ランブータン、それぞれそのものの香りが濃厚に感じられるにも関わらず人工的ではなくスッと体に入ってくるような自然な香りでした。色もそれぞれ個性があって、例えばコーヒーの花から取れたハチミツはライチのハチミツよりも色濃く、その名の通りコーヒーのような色合い。


目的地の工場。一見、工場には見えない可愛らしいカラーリングでした

目的地の工場。一見、工場には見えない可愛らしいカラーリングでした

この4種類のハチミツの違いをパッケージデザインで認知できるようにしたいという意向を事前に伺っていましたが、ひとくちにハチミツといっても花の違いでこんなにも香りや色が違うということを実際に体験できたことはデザインを進める上で貴重な経験となりました。また、工場の方々から生産過程を伺えたこともよかったです。

ロンガンもライチもランブータンも中身の見た目は白くてみずみずしくてフレッシュで、でも外側の硬く色鮮やかな皮に覆われていてギャップがあります。南国の果物の特徴なのでしょうか。ベトナムのジャングルの中でたくましく実っている様子を、みずみずしい中身も含めてイラストで表現しました。

そして、ハチミツの主役は、やっぱりハチ。デザイン上も様々なハチに登場してもらいました。


ランブータンとコーヒー

ランブータンとコーヒー


ロンガンとライチ

ロンガンとライチ


Artboard 35.jpg


パッケージを包む紙のラベルも同系色で統一感を出しつつ、4色で差が分かるように工夫しています

パッケージを包む紙のラベルも同系色で統一感を出しつつ、4色で差が分かるように工夫しています

パッケージを含むブランディングの場合は、容器などもデザインすることがあります。特徴のある形にしたり、色を付けたり、容器自体に印刷したり。けれど、この企画では、まずは製品自体の費用に重点を置きたいという要望があり、容器は既存の瓶を使用することで費用を抑えられるよう工夫しました。また、ベトナムの工場にもともとあるシールを瓶に巻きつける機械にセットできるよう、サイズが合うもの、かつハチミツの世界観を表現できるような瓶を探しました。実は直接的なデザイン以外にもこういった容器探しや工場との調整なども重要なデザインの要素の一つなのです。

また、ターゲットはこのハチミツを20−30代の日本の女性に向けて販売したいとのことだったので、ギフト需要も見逃せないという提案をし、ギフトボックスとハンディバッグも制作することに。


4個セットと6個セットのボックス

4個セットと6個セットのボックス


アートボード 1 copy.jpg

ベトナムで見た鮮やかな果物と青い空、ヘルシーなグリーン、そんな気持ちをデザインにストレートに表現しました。この企画は、実際に現地に足を運んだ時に見た景色や体験したことがインスピレーションになり、デザインに昇華された案件のひとつでした。

Illustration, Dona


7月のヤンキー・スタジアム

7月のヤンキー・スタジアム

今日はデザインとは関係ないトピックですが、今、大活躍中のメジャーリーガー大谷翔平選手について記事にしたいと思います。野球観戦は趣味のひとつですが、試合そのものの面白さはもちろん、選手ひとりひとりの野球人生、試合の裏側にあるドラマも多く目が離せません。プロ野球選手(アスリートは皆、そうかもしれませんが)は選手生命が短い分、活躍したり、怪我をしてしまったり、そこからまた這い上がったり、荒々しいドラマが凝縮されていますよね。そこにロマンを感じるのです。まさに人生の縮図がそこにあり、僕にとっては生きた教材になっています。

7月と昨日と二回、大谷選手の試合をヤンキースタジアムで観戦してきました。残念ながらヒットは見れませんでしたが、近くで見るとその存在感の大きさ、堂々した振る舞いと佇まいに驚きました。


8月16日の大谷選手

8月16日の大谷選手

大谷選手はアメリカの野球ファンの間でも超人気。選手としての実力はもちろんですが、彼の人間性も注目されていますよね。会見が終わった後は自分で椅子を戻したり、ゴミを拾って自分の後ろポケットにしまったり。審判からの身体チェックも笑顔で快く受けている姿も話題に。昨日の試合でも、アシスタントに任せてもいいところを自分自身でバットを拾っていて、感銘を受けました。

当たり前の行為かもしれませんが、彼ほどの立場になればそれにあぐらをかいてしまうこともあるかもしれません。けれど、彼は常に謙虚な姿勢を保っているので、すごいなあと思っていたのですが、ある時、大谷選手が高校一年生の時に書いたマンダラチャートという目標達成のフレームワークがあることを知って、彼の立ち振る舞いの原点を知ることができたような気がしました。このチャートの大谷選手の目標の立て方が非常に勉強になったので紹介させてください。

マンダラチャート(マンダラート)とは?
マンダラートは、発想法の一種。紙などに9つのマスを用意し、それを埋めていくという作業ルールを設けることにより、アイデアを整理・外化し、思考を深めていくことができる。今泉浩晃によって1987年に考案された。参照元:Wikipedia


大谷選手の高校一年生の時のマンダラチャート 参照元:https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/02/02/gazo/G20130202005109500.html

大谷選手の高校一年生の時のマンダラチャート
参照元:https://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2013/02/02/gazo/G20130202005109500.html

ドラフト一位というだけでもものすごいことなのに、8球団競合になることが目標だったことに志の高さが伺えます。ここで注目したいのが、「運」という項目。運という言葉を辞書で引いてみると「人の身の上にめぐりくる幸・不幸を支配する、人間の意志を超越した働き。天命。運命。」と出てきます。そういう自分自身の力では及ばないことすらも、引き寄せようとしているんですね。

僕も今からこのフレームワークを取り入れてみたいなと思っているところですが、実は僕は子供の時から目標達成について自分なりの実践方法があります。

僕は小学5,6年生のときに、その後の自分の人生に多大な影響を与えてくれるような恩師との出会いがありました。それが当時の担任の松尾先生です。先生がある日突然「よし、みんなでやってみよう」とクラス全員に提案したものが、その名も『なまけ心に負けるなシート


内容はとてもシンプルで毎日自分が決めた時間だけ勉強を頑張ろうというものでした。目に留まる自宅の机の横にかけておいて、毎日達成した勉強時間を記入していくシートです。そして先生は、もしみんなが勉強が続けられたら、お祝いに野球観戦に連れて行くという約束をして、2年後、実際に果たしてくれました。30年前の当時、小学校の担任の先生が自腹でクラスの生徒全員をプライベートで野球観戦に連れて行くなんて、本当にあり得ない発想だったと思います。

11歳の頃、僕は先生に言われるがままに一日40分と時間を設定して、まず3日間頑張りました。これは行けるぞと思って、次の日は45分、50分、55分と伸ばしていって、ついには始めて一週間経つ頃には1時間まで続けることができました。これに気分を良くして、この毎日一時間というのを頑張って守ろうと思い、小学校を卒業するまでの2年間は一度もサボることなく毎日1時間以上自主的な勉強を続けることができました。

話は少しそれますが、その松尾先生が勉強内容に勧めたのがひらがなの練習です。字がきれいであることに人生において何一つ損はないと言って、小学校高学年の僕らにひたすら、ひらがなをトレースすることを勧めました。僕はそのおかげで、ひらがなの美しい文字のバランスを覚えたと思います。文字一つ一つの美しい形とバランスを知っているかどうかがいかに重要か、今頃になって思い知らされます。

この辺りで閑話休題、この毎日一時間勉強を続けるというのが僕の人生において初めての成功体験となりました。当時は、何か目標を達成するための勉強ではなく、まずは机に向かうということが目標ではありましたが、2年間自主的に(ひらがなの練習がメインでしたけど笑)続けることができたのは子供ながらにすごく自信になりました。

JAGDA(ジャグダ)新人賞という39歳以下に与えられる日本グラフィックデザイン協会が主催する国内トップのアワードがあります。その賞は日本全体のグラフィックデザイナーの中で一年に3人しか受賞することができません。僕は30歳からチャレンジを始めて、そこから9年かけてスキルを積み重ねて、38歳でようやく受賞することができました。

9年間、特に後半は、もうダメだ、自分には才能がない、挑戦するのを辞めようと何度も考えました。でも、自分が立てた目標を達成したい思いが勝り、なんとか続けることができました。今振り返ってみると、小学校時代の『なまけ心に負けるなシート』で鍛えられた続ける力の影響があったと思います。そして、多くのデザイナーの先輩が親身になってくれてアドバイスをくれたことも大きいです。もしかしたら、先輩方は諦めずに粘り続ける様子を見て、親身になってくれたのかもしれません。そういう意味で「運」も引き寄せたとも考えられます。

とはいえ、僕の個人的な考えですが、努力すれば必ず目標が達成できるとは思っていません。特にスポーツの世界においてはそれが顕著だと思います。どんなに努力しても、どんなに想いが強くても勝てない、叶わない時もある。ライバルも多い。運だってある。何よりしっかりと戦える選手生命が短い。でも、目標に向かうためには多かれ少なかれ、必要なことは努力を続ける力だとも思っています。大谷選手のような天才でさえも!

昨日は、僕の後ろの席に座ったヤンキースファンのおじさんが「オオタニほど素晴らしい選手はいない!彼がNo.1だ!」と言っていました。そんなヤンキースファンをも虜にして、巨大なスタジアムで大歓声を浴びる彼の姿に感動しました。まだまだ彼にとっては道半ばなのかもしれないので今後の野球人生にますます注目したいと思います。

大谷選手のマンダラチャートと、僕のなまけ心に負けるなシートは到底、比較の対象にもなりませんが、どんな形であれ、まずは目標を想像できる範囲で可視化することが大事だと思います。そして、ひとつひとつ長い時間積み重ねていくことで、遠い目標に少しずつ近づいていくのが、唯一の道だと思います。

大谷選手にたくさんの刺激を受けて、なまけ心に負けるな。と呪文のように今日も唱えて机に向かっています。笑 さあ、頑張ろうっと。

来週は夏休みをいただいてお休みさせていだきます。次回更新は8月31日を予定しています。

アメリカは多くのクラフトビールがあり、スーパーのビール売り場にも日本とは比べ物にならないくらい数多くの種類が並んでいます。各社、ユニークでポップなパッケージデザインが溢れる中、一際目を引くのがBrooklyn Brewery。まさにビールの顔であるラベルのロゴとカラーリングが強く印象に残ります。デザインを手掛けたのは、あの「I♡NY」をデザインしたミルトン・グレイザー氏。ビールも美味しく普段からよく飲んでいたのですが、先週末ようやくブルワリーを訪れることができました。


Image: mltonglaser.com

Image: mltonglaser.com


Image: mltonglaser.com

Image: mltonglaser.com


ブルワリーの中の雰囲気

ブルワリーの中の雰囲気

歴史と哲学

Brooklyn Brewery(ブルックリン・ブルワリー)は1988年創業。ブルックリンはもともと製造業とビールの街として非常に栄えていたのですが、財政と共に治安も悪化し犯罪が増加。時代の変化と法改正の影響で当時あったブルワリーの全てが閉鎖されるなど、徐々に街は寂れていってしまったようです。そこで、創業者のスティーブ・ヒンディがブルックリンに活気を取り戻したいという想いで作ったのがこのブルックリン・ブルワリーでした。

当時、ブルックリンにはマフィアも多く、今のオシャレでトレンドが生まれる街とはかけ離れており、ブルワリーの名前に「ブルックリン」を入れることについて、多くの人が賛同しなかったそうです。けれど、スティーブは、ビールを通して異文化を融合させ、人と人を繋いでいくという理念のもと、劇団をはじめアートギャラリーや公園、そしてNPOなどにビールを寄付するなどして、多くの人達が交流できるきっかけを作りました。現在、ブルックリンが様々な人種の人たちが行き交い、新しい流行が生まれる最先端な街になり得たのもこうした彼の功績が大きいのかもしれません。


ブルワリーの入口正面に大きなビアタンクとロゴがゲストを迎え入れてくれます

ブルワリーの入口正面に大きなビアタンクとロゴがゲストを迎え入れてくれます


外壁にはブルックリンらしいアーティスティックなペイント

外壁にはブルックリンらしいアーティスティックなペイント


ベンチやドアまでロゴをうまく活用しています

ベンチやドアまでロゴをうまく活用しています


いたるところにBのロゴが。ここで働くひとたちが、このロゴに誇りを持っていることが伝わってきます。

いたるところにBのロゴが。ここで働くひとたちが、このロゴに誇りを持っていることが伝わってきます。

Brooklyn Breweryのロゴができるまで

創業者のスティーブは、ロゴとアイデンティティを作成するにあたり約三十ものデザイン事務所を検討したのですが、どこもピンとこなかったそうです。そこで、当時すでに巨匠であったミルトン・グレイザー氏に電話したのですが、最初は断られてしまいました。けれど、スティーブは諦めずに電話をし続けようやく会うことができ、ミルトンも彼の情熱と可能性に依頼を受けることになったというエピソードがあります。創業者であるスティーブのデザインとブランディングへの熱意が伝わってきます。また、報酬についても興味深い話があります。まだ会社も小さく予算もなかったので、会社の5%の株式と時給というかたちでデザイン費を支払ったそうです。


打ち合わせをする、創業者のスティーブ・ヒンディ(左)とミルトン・グレイザー(右)Image: Brooklyn Brewery

打ち合わせをする、創業者のスティーブ・ヒンディ(左)とミルトン・グレイザー(右)

Image: Brooklyn Brewery

当初、スティーブが依頼したロゴは当時のブランド名である「Brooklyn Eagle Brewery」でしたが、ミルトンは「Eagle」を削除するように説得したといいます。ミルトンは「ブルックリンを主張しよう、今、ブルックリンを推している人は誰もいない。この街は過小評価されている」と。当時からミルトンもスティーブ同様にブルックリンがこれから魅力的な街になると信じていたのでしょうね。スティーブも納得し、今の「Brooklyn Brewery」が誕生しました。

ミルトンが最初に作った「B」のマークを見た時に、スティーブは思わず「これだけ?」と聞いたそうです。すると、ミルトンは「家に帰って、テーブルに置いて奥さんに見せてごらん」と。その通りにしたところ、すぐさまスティーブの奥さんが気に入り、スティーブも先入観を取り払うことで「B」のシンプルな美しさが浮き立って見えるようになりました。一般的にシンプルなデザインは、整頓されていて清潔に見える反面、サラッと流される個性が薄いデザインになってしまうこともあります。でもこのBのロゴはシンプルながらボールドでとてもユニークだと僕は思います。

また、売上が伸び悩んでいた時にスティーブはホームブルーイングのレシピを応用して新ブランドを作ろうとしました。ネーミングもファミリーネームを使った「Hindy’s Chololate stout」を候補に。ところが、ミルトンは「あなたたちはブルックリン・ブルワリーをまだはじめたばかり。だからブルックリンという名前を使い続けよう。」とアドバイスをしたそうです。売上げがついてこない場合、現状の課題を見つけアップデートするのはブランドにとって必要なことですが、使い続けていくべきブランドの骨子まで変えられてしまうケースは現代でも見られます。そういう意味では、ミルトンはまさにデザイン視点での経営コンサルを行っていたのですね。


飲んだのはRooftop OasisとBrown Ale。どちらも日本のビールよりはホップ強めで味わい深いです。今は、パンデミックの影響で、グラスではなくプラスチックカップですが、それでもロゴをしっかりとプリントして、ブルワリーで飲むビールというこの場所ならではの体験をよりリッチなものにしています。些細なことですが、顧客体験を設計する上で非常に大事なことです。

飲んだのはRooftop OasisとBrown Ale。どちらも日本のビールよりはホップ強めで味わい深いです。今は、パンデミックの影響で、グラスではなくプラスチックカップですが、それでもロゴをしっかりとプリントして、ブルワリーで飲むビールというこの場所ならではの体験をよりリッチなものにしています。些細なことですが、顧客体験を設計する上で非常に大事なことです。

この投稿をInstagramで見る

Brooklyn Brewery(@brooklynbrewery)がシェアした投稿

この投稿をInstagramで見る

Brooklyn Brewery(@brooklynbrewery)がシェアした投稿

これらのパッケージデザインは、ミルトン・グレイザー氏が手掛けたものではありませんが、ブルックリン・ブルワリーは季節限定パッケージなどデザインの展開と見せ方が非常にうまいと思います。今は夏なので、カラフルでポップで炭酸が喉の奥ではじけるような、ビールを飲みたくなるような楽しげなパッケージを前面に出しています。その他にも、オクトーバーフェスト、ウィンターラガーなど、シーズナルの期間限定商品が売上の多くを占めるマーケットにおいて、ロゴ周りの色やパターンを変更するだけで、その季節感を演出したり、中身のフレーバーを想起させたり、商品コンセプトやターゲットを変えたり、狙いによってさまざまな表情を生み出すことができて、それでいてBrooklyn Breweryというブランドイメージがキープできるのは、そのロゴマークの完成度が高い証拠でもあると思います。

この投稿をInstagramで見る

Brooklyn Brewery(@brooklynbrewery)がシェアした投稿

ちなみにこのBrooklyn Breweryのビール、世界初フラッグシップショップ「B」が東京茅場町にあるということなので、日本でも味わうことができるようです。ただ、今はこのパンデミックで休業中なので、リオープンした際はぜひ足を運んでみて良いデザインとビールの美味しさを味わってみてください。

https://www.b-tokyo.info/